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方向性はまだない

ドラッカーと会計?と思ったが、良書だった。

ドラッカーと会計の話をしよう (中経の文庫)

ドラッカーと会計の話をしよう (中経の文庫)

ブックオフで買っていた本をようやく読むことができたので、マインドマップにまとめた。

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この本は物語になっていた。

銀行勤めで会計の知識には自信のある主人公が脱サラしてイタリアンレストランを始めるも、経営が悪化。資金繰りをしながらなんとかやっていたが、妻と子供が実家に帰ってしまう。そんな中、レストランを買収したいという申し出があり、その話に乗ろうとロサンゼルスに旅立つ飛行機で、運良くファーストクラスに乗ることに。その機内で隣の席に座った還暦くらいの男性に話しかけられ、経営と会計の誤解に気付かされていく…。

という感じだろうか。すごく読みやすくて、数時間で読み終わったけれど、マインドマップにまとめながらまた読んだら結構発見もあった。

利益が会社を潰す

1章のタイトルが刺激的だが、これは主人公の純一のイタリアンレストランは、一度も赤字になっていないのに資金繰りが辛いという。そこで西園寺(隣の席の男性)は「利益ってなに?」という質問をする。

利益は、売上ー費用=利益だと自分も思っていたのだけれど、違うという。会計でいう利益は、「期間利益」であり、1年など期間を区切った利益なのだがこれは簡単に操作できてしまう。赤字にしないために早めに売上をもらえるように調整したり、逆に、経費を次の期に回したりなど経理操作ができてしまい、信頼するには危ういデータであるという。

経営にはサイクルがあり、長期的視点で行うものである。しかし、会計はそのサイクルを無視して業績を計算することを要求してくる。西園寺が例えを出していたが、経営はマラソンのようなもので、10kmごとのラップタイムを競うようなことはないのだが、会計はラップタイムを出してきて、銀行・投資家はそのラップタイムにしか興味がないという。ゴールを目指しているのに、途中でチャチャを入れてくるわけだ…。

このラップタイムにフォーカスして経営するようになると、ラップタイムをよく見せようとして体力を温存すべきところで速く走りすぎたり、スパートをかけるところでコストを気にしてスピードダウンさせたりということになってしまうわけだ。痛烈な言葉で、「今日の利益のために明日を犠牲する」という一句があった。

利益は信頼に足らないのだけれど、では何を見ればいいのか?というと、キャッシュフローを見ろという。現金を生み出せない会社は破綻する。そして、キャッシュフローの元データは預金通帳のため、損益計算書と違って操作ができない。キャッシュフローこそが、会社の血液なのだろう。

商品戦略

西園寺は純一に、どういうレストランなのかを質問し、豊富なワインと多数のメニューを揃えたレストランという説明をする。そこでも一刀両断される。

西園寺はメニューに戦略性を持たせなければならないという。メニューにこそ、しっかり練られた儲けの仕組みが組み込まれていなければならない。多ければいいというものではない。 ラインナップが豊富なのは、お客さんとしては嬉しいが、経営者としては大変。なぜならば、在庫をたくさん抱えなければならないからである。ワインを大量に抱えつつ、品質を保持するのはコストがかかる。多数のメニューにしても、レシピの管理や滅多に出ないような食材の確保などで冷蔵庫がパンパンになってしまう。それでは運転資金が多く必要になってしまう。

そして、ここで80対20の法則の話が出てきた(本の中では90対10になってた)。利益の9割はメニューの1割が作り出していて、残りの1割をその他9割のメニューが作っているというやつだ。 つまり、売上に貢献しているのは、

  • わずかな商品
  • わずかな顧客
  • わずかな営業部員

というわけだ。ここで、メニューを絞り込めというが、ではその1割に絞り込めばいいかというと、そうではない。なぜならば、今売れているものが今後も売れ続けるとは限らないからだ。

ライフサイクル

製品には寿命(ライフサイクル)がある。ライフサイクルを意識して、品揃えを常に入れ替えていかないと会社は存続できないと西園寺はいう。

ライフサイクルは11まであったが、ピックアップされていたものを上げると以下のようなもの。

  1. 今日の主力製品・・・常に大きな売上を占め、大きな利益を上げる製品
  2. 明日の主力製品・・・特に宣伝しなくても売上も利益も大きい。そのため放置されがちだが、見返りが大きいため、ここに最もコストをかけるべき。
  3. 開発製品・・・生まれたばかりの赤ん坊。会社が新陳代謝をするために、製品開発は怠ってはならない。
  4. 失敗製品・・・問題製品。経営がうまくいってない会社は、サンクコストにこだわって抱え込んでしまい、ますます業績悪化。
  5. 昨日の主力製品・・・売上は大きいが、利益は少ない。勢いがなくなったため、価格を引き下げたり、宣伝費が注ぎ込まれしまう。今日の主力商品と思っているものが、昨日の主力商品になっていないかは監視しておかなければならない。
  6. 独善的製品・・・経営者のこだわり製品。ヒト・モノ・カネが湯水のように投入される。多額の投資をしているうえに経営者がこだわっているため、現実を直視できない

ライフサイクルを意識して、

  • 今日の主力製品が昨日の主力製品になってないか?
  • 明日の主力商品を今日の主力商品にできないか?
  • 開発製品を明日の主力商品にできないか?
  • 失敗製品に見切りをつけられるか?
  • 昨日の主力商品のコストを下げられないか?
  • 独善的製品が主力商品に化ける可能性はあるのか?

などを検討していかないといけない。

コストカットは未来を奪う

3章に書かれていた内容が、個人的にはすごく勉強になった。3章の副題は「コストカットは未来を奪う」という刺激的なものなのだが、読んだだけでなんか身に覚えがあるなと感じた。多分、他の人たちも感じるのではないだろうか?

利益はどこから生まれるか?

顧客が製品を買ってくれない限り、利益はどこからも生まれない。プロフィットセンターは社内には存在しない。会社の中はコストの塊である。

コストはどこから生まれるか?

全ての仕事にはコストがかかる。そして、コストと利益の間には明確な因果関係は存在しない。コストをかけたら利益が上がるとは限らない。

また、コストについても10対90の法則が当てはまる。コストの90%は、業績を生まない90%から発生する。利益を生み出す活動に意識的に力を入れないと、コストは何も生まない活動に使われていく。そして、損益計算書には、お金がどのように使われたのかは書かれていないため、そこだけ眺めても何が無駄なのかわからない。そのため、無闇にコストカットをしようとしてしまう。

お金の使い方が将来を決める

お金は、利益を生むように使わなくてはならない。つまり、将来のキャッシュフローを生み出すように。お金の使い方が将来を決めるので、もし業績が悪化したとしたら、投資がキャッシュを生んでいないということだ。そのため、現金を使うときには、

を考えて使わなければならない。

ここでも会計の話が出てきて、投資は長期にわたって効果が期待される支出なのだが、会計は期間で評価してくる。経営は長期的視点で行わないといけない。短期の利益の確保のために本来するべきである投資を減らしてコストカットしたつもりになってはならない。

コストカットすべきは、90%のコストを生じさせている活動の中から削減する。

  1. 最大のコストに集中する。コストの低いものを削減しても労力は同じなのに効果は薄い。
  2. 種類によって管理しなければならない(削減対象が将来への投資かもしれないから)
  3. 最も効果的なのは、活動そのものを辞めること

最悪のコストカットは、ちまちまとした節約や備品の質を下げることなどの場当たり的なものだ。これは、「短期利益のために最も大切な長期の利益を犠牲にしている」と書かれていた。こういうことをすると、会社と従業員の間で長年築いてきたものを、たった1日で壊してしまう。結果、人が辞めてしまう。人が辞めると、例え業績がよくなったとしても、そのステージで業務を任せられる人がいなくなり、さらに業績が落ちる。また、新たに従業員を入れたとしても育成には時間がかかる。

まぁこういうのは家計についても同じことが言えるだろう…。そのコスト、本当にカットしても大丈夫なコストですか?

客はオーケストラの何にお金を払うのか?

最後の章は、コストと原価計算の話になっていった。

伝統的な原価計算GMなどの巨大メーカーによって1920年代に発明された大量生産・大量消費の時代のものである。そのため、現代の多品目・オンデマンドな時代にはマッチしておらず、原価計算が正当なものになってないことが多い。

現代はビジネスプロセス全体(材料の調達から生産、流通、販売、アフターケアまで)でコストを考えなければならず、そのプロセスの流れこそが重要で、1つ1つを個別にしても正しい原価は得られない。これは、ABC原価計算を使えばいいらしい。ちなみにABCは、Activity Based Costing。

製品の価格は消費者が決める

消費者は、満足と引き換えに、製品購入までのコストを全て負担する。消費者が満足するのであれば、販売価格の材料費が例え10倍であっても問題ない。逆に、満足しなければ、材料費が3倍でも買わない。いくらなら消費者が受け入れるか、その価格から利益分を差し引いた金額が、製品にかけられる上限のコストとなる。

従来の、原価から計算して価格を決めるのは間違っているというか、時代にあっていない。会計の(伝統的な)原価計算は正しい原価を現していないので、売れても実は赤字になっていることもあるらしい(アフターケアが考慮されていないなど)。

4章の締めがよかった

最後には、人生の道標になりそうな名言が並んでいた。

  • 将来は誰にもわからない。ただ、切り開くことはできる。
  • 成果を出すには何をすべきかを論理的に考え抜くこと。勝負は戦う前に決まる。
  • お金を稼ぐことは人生の目的ではない。前提なんだ。
  • 利益は将来のリスクに備えるための保険

あとはエピローグがあって、2年後の純一と西園寺が再び飛行機で出会い、どういうことをしてレストランを立ち直らせたかという話が載っているが、それは本を読んでもらったらいいかなと思う。

学び

会計の本ではあるが、どちらかというとドラッカーというだけあって経営の本であり、非常に楽しく読めた。会計のいい加減さや、キャッシュフローの大切さもわかったし、経営戦略としての商品のライフサイクルや、いいコストカット、悪いコストカットが学べた。

読んでいて途中で思ったのは、経営と投資って似ているな、ということだった。利益は将来のリスクに備えるための保険、というのを読んだときに、前の投稿で書いていた、くるくるワイドのことがよぎった。

patorash.hatenablog.com

設備投資は貯蓄と稼ぎの範囲内で行うべきと、今回読んだ本に書いてあったのだけれど、それってくるくるワイドの複利と固定ポジションのことでは?と思ったのだ。同じく、稼ぎの範囲内でリスクコントロールに対して投資を行っているから。今までは投資(FXに限らず、株とか)で儲かった!損した!と一喜一憂していて、利益をリスクに備えるために使うという考えに至ってなかったと思う。 まさに、「お金の使い方が将来を決める」のだ。多分、運良く一時的に大金を手に入れたとしても、リスクに備えるために使っていなければ、せっかく得たお金も同じようにすぐ失ってしまうのではないだろうか?

経営目線、投資目線の両方で学びがあって、大変よかったと思う。